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フラコミlike!で大好評連載中の『ハイスクール・オーラバスター・エンゲイジ』の原作者・若木未生先生。
コミックス2巻発売を記念して、コミカライズの経緯や制作秘話など、名作の軌跡に迫る。

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今回の『ハイスクール・オーラバスター・エンゲイジ』は、『ハイスクール・オーラバスター』シリーズの新たなコミカライズですが、どのようなきっかけで始まったんでしょうか?

若木:作画をされている佐々木柚奈さんと10年以上前に知り合ったんですけど、そのときから「いつか『オーラバスター』をまんがにしたいです!」とおっしゃってくださってたんです。私もお願いしたいと思っていたんですが、佐々木さんの『社長とあんあん』や『モザイクラブシャワー』を読んでいたので、「こんなヒット作家さんに、ほかの作品を描く時間はないのでは?」と思って、遠慮していたんです(笑)。ちょうどフラコミlike!が立ち上がるときに、「ここで描くことができそうです!」と言ってくださって。渡りに船というか…(笑)。

佐々木先生からのご提案だったんですね!

若木:私も「いつかやりましょうね」とは言っていたんですが、「ベストなタイミングって、一体いつなんだろう?」と模索していて。でも、佐々木さん的に準備が整った段階になったので、「これはありがたいことだ」と、一も二もなく「やりましょう!」ということになりました。佐々木さんは『オーラバスター』を心の底から愛してくださっていて。ときには「十九郎描きました!」って大きな絵を描いてくださったんですが、それだけでは足りないくらいに心の熱量が溢れて、2畳分くらいある大きなタペストリーにしてくださったりとか(笑)。そういうことを折々に触れて、ただただ愛情を注いでくださって。「そんないい方がいらっしゃるんだ」って(笑)。本当に出会いがあったおかげですね。

若木先生の名作『グラスハート』の実写ドラマ化だったり、いろいろなことが同時期に動くタイミングが来たのも運命的な感じがしますね。

若木:そうですね。『オーラバスター』の企画は『グラスハート』とは全然別枠で動いていて、担当さんとも打ち合わせをさせていただいていたんです。それが結果的に同じタイミングで世に出る流れになりましたが、まったく想定していませんでした。

今回、連載第1作目は新規読者も入りやすいだろうとのことで、番外編の『見えざる玩具』からスタートされましたよね。

若木:これは、佐々木さん、担当さんと私の3人の総意で、「この物語に入りやすい入り口的な作品から始めたほうがいいよね」っていうことで選びました。いきなり大きな話の第1話じゃなくて、短い話をやったほうがいいだろうと思って。いくつか別案もあったんですが、担当さんが一言「僕、希沙良が好きなんです」っておっしゃって(笑)。確かに、希沙良はみんな好きなんですよ。それで、希沙良と十九郎の昔の話が番外編として既に書いてあったので「そこから始めたらどうかな?」って、私のほうから提案させていただきました。

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希沙良と十九郎の関係性がわかる人気作の番外編。コミカライズならではのシーンも!(『見えざる玩具』第2話-1)

ストーリーも新たに加えた部分や、希沙良と十九郎の子どものころのエピソードから始まったりと、原作に+αされていますよね。それは、どのような流れで構成されたのでしょう?

若木:3人集まって文殊の知恵じゃないですけど、それぞれ案を出し合った感じです。私がエピソードの間を埋めるための短いシーンをいくつか書き起こしたり、佐々木さんが子ども時代のエピソードを本編から持ってきてネーム(まんがのコマ割りをしたラフ画)で起こしてくださったりして。シンプルに“世の妖を退治するエピソード”を選びました。最初はそんな感じで作っていたんですが、その後は敵方のメインキャラ担当のつぼみ可奈さんも加わって4人で集まって話したりしています。

実際、この連載が始まってからの読者の方からはどんな感想をいただきましたか?

若木:まず皆さん「またやるんだ!」って驚いて、そしてすごく喜んでくださいましたね!本編に入らないで番外編をずっとやっていくのかなって心配された方もいらっしゃったんですが、大丈夫です!(笑)。

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打ち合わせの方法や案出しなど、制作の段取りはどんな感じで進んでいるんでしょうか?

すごく丁寧な作り方をしていると思います。まず、打ち合わせをして展開を決めて、佐々木さんがまんがのネームを上げてくださったものを担当さんと私が確認して、次に下絵、そしてペンが入ったものを見せていただいて、「OKです」となったら、仕上げをしてくださるという感じです。何度も何度も確認させていただくので、「ありがとう!」という気持ちです(笑)。私は「原作側から見てどうか?」ということしか言えないので、「まんがとしてどうか?」はお任せして、それをバランスを取って進めてくださる感じですね。

では、今作ならではの新たに魅力を感じられたことはどんなところでしょうか?

若木:佐々木さんは読者の方としてすごく愛情を持って読んでくださっていたし、原作の挿絵や以前のまんがにも愛情があるので、今までの作品も大事にしながら、自分は自分でどう描くのかを工夫されていらっしゃると思うんです。私はとくに、エンゲイジの十九郎の御曹司みが好きなんです(笑)。佐々木さんの描く一番いい男のゾーンがあって、「そういうの得意だよね」ってささやいていたら、そこに十九郎を寄せてくださった感じがします(笑)。あとは、ケレン味ですね。絵のアピール力がすごくあって「まんが力がすごい!」って思っているので、そういうのが発揮されています。「ここで見開きのバーンとした絵が欲しい」ってときに、そのシーンが入っていたりするんです。本当に思いっきりよく画面を使ってくださるので気持ちいいですね!『見えざる玩具』の1ページ目の忍さんもあまりにキレイで、永久に見ていられます。

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術者を統べる“空の者”忍の姿。この物語の空気感を生み出している、麗しい1枚!(『見えざる玩具』第1話-1)

この1枚目の絵で、「これから何かが始まる…!」と表現するような1ページだなと思いました。作中で若木先生がとくにお気に入りのシーンや描写なども教えていただけますか?

若木:どれかに絞るのは難しいんですけど、強いて言えば2つあるんです。1つは諒と亮介が出会うシーンですね。屋根の上の諒と部屋の中にいる亮介、何も言わないんですけど語っているんですよね。すごく大事なシーンを壊さず丁寧に扱っていただいて「本当に光栄だ」っていう気持ちと、読者として「なんていいものを見せていただいたんだ!」っていう気持ちです。あとやっぱり外せないのは、『天使はうまく踊れない』の希沙良と諒が戦うアクションシーンですね。ここも見開きなんですが、ネーム(※1)が出てきた段階で「これはヤバイことになる!」って思って、「原稿が上がったら私、プリントアウトして仕事場に飾るわ!」って言ってたんです。でも、自分の中でテンションが上がりすぎて、原稿が届いたらとりあえずPC画面をスマホで撮ってました!おちつけと言いたい(笑)。それくらいインパクトありました。

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満月の夜、諒と亮介が窓越しに出会う場面は印象的! 時が止まったような感覚に…。(『天使はうまく踊れない』第4話-2)
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諒と希沙良が出会い、ぶつかり合う! 全開にした2人の能力が炸裂する名シーン!!(『天使はうまく踊れない』第7話-3)

若木:あとは、ちょっと裏おすすめポイントになるんですけど、敵方の宮倉先輩に憑いている妖の者・センリが怖いんですよ。普通、少女まんがではあまりこんな絵を見ないっていう。それが迫力を生んで、亮介の目覚めに繋がっていくんで、そういうところで容赦なくドラマを作っていかれるんだなと思いました。佐々木さんがXで「歯をたくさん描いた」って言っていたので、そういうところが怖さの秘密のテクなのかな。

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佐々木先生が渾身の力をこめて描いたセンリの姿。追い詰められた、亮介は…!?(『天使うまくは踊れない』第11話-2)

今作のタイトルに入っている『エンゲイジ』ですが、これにこめられた思いもお聞かせいただけたらと思います。

若木:私がすごく好きな言葉って言うこともあるんですが、なにより佐々木さんが「まんがにしたいです!」って言ってくださっていたこと自体が“約束”だなって思っていたんです。エンゲイジには“誓約”という意味もあるので、「私からのエンゲイジ」という想いもこめてタイトル案を出させていただきました。実は昔、希沙良のキャラクターソングを作ったんですが、タイトルが「誓約」と書いて「エンゲイジ」と読むんです。希沙良のテーマにあやかる気持ちもあって。

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数々の作品がコミカライズ・映像化されていらっしゃいますが、ご自身の小説が別のメディアになる際の醍醐味や楽しみなどを教えていただけますか?

若木:基本的に「自分の小説は自分の小説で完結している」と思っているんです。ほかのメディアでそれをそのまま再現するのなら、小説が小説である理由がないなって。“餅は餅屋”ということで、別のメディアに持っていったら、そのメディアで一番いい状態で形になるのがいいと思っています。あと、まんがが好きなので、シンプルに面白いまんがとして読みたいです(笑)。今回映像化で『グラスハート』がドラマになるんですけど、それも原作とは違うところがけっこうあるんですよ。「変えてもよいでしょうか?」ということを丁寧に聞いていただいたんですけど、「いいですよ!」って(笑)。「ここを変えるのはダメです」っていうところは残していただくんですけど、やっぱりメディアが違うということは、そこで一番輝いている人たちが輝けるようにと思うので。それで、読者の方たちから見て、“自分たちの思ったのと違う”と感じたら申し訳ないんですが、守りたいところは守っているので。

『グラスハート』のお話も出ましたが、7月31日からNetflixで全世界独占配信になりますね!予告動画も話題でしたが、若木先生としてどんなところを楽しみにされていますでしょうか?

若木:全部楽しみです。ただ、まだ公開前で秘密なので詳細は言えないんです。裏話としては、予告に使われてる「明日、世界がTENBLANK(テンブランク)と出会う」っていうセリフがあるんですけど、あれは原作にはないセリフなんです。「藤谷が朱音ちゃんに言うセリフを、考えていただけますか?」と依頼のお願いがありました。「明日本番があるから、がんばろう」みたいなことを言う場面だけど、そういう言葉じゃないんだろうなって思って。それで「使えるようでしたらお願いします」ってお渡ししたら、予告にも使っていただいたのですごく嬉しかったですね。あと、映像が本当にきれいです。映像のみずみずしさとか青春っぽさ、『グラスハート』の空気感がずっと変わらないのですごいなと思いました。

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小説を書くとき、キャラクターはどうやって生み出されているんですか?

若木:作品の方向性によるのですが、“キャラクターが降ってくる”パターンが一番多いのかな?とくに『オーラバスター』はだいぶ歴史があるので、若いときに作ったキャラが多いんです。高校生ぐらいのときに夢の中で“十九郎”って人が出てきて、「変わった名前だな」と思ってそのまま使わせていただき、現在に至ります。十九郎をキープしていて「いいところで登場させなきゃ」って考えて、そのうち『天使はうまく踊れない』の中に配置したんですが、いざ十九郎をしゃべらせようとしたらツッコミが足らないっ!ってなりました(笑)。それで希沙良が登場したり、だんだん生まれてきましたね。

それだけ長くキャラクターを大事にされていると、思い入れも深くなりますね。

若木:そうですね(笑)。諒なんかは中2のときに作ったキャラクターで、そのときに彼の生い立ちも考えていたんです。「これからどういうふうに描いていこう」と、自分の中でずっと大事にしていたんですよ。『オーラバスター』と全然違う作品でコバルト・ノベル大賞の佳作をいただいてデビューすることになったとき、「自分の持っているキャラがオールスターで登場する作品を書こう!」と思って、冴子とか昔作ったキャラクターを集めたんです。亮介と忍さんは新しく作ったキャラでした。亮介を主人公に、忍さんを裏主人公で『オーラバスター』の軸にして、亮介のところに諒が来て話が始まる…という形で。

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亮介と忍。正反対のようなこの2人が表と裏の主人公として、物語は展開していく。(『天使はうまく踊れない』第8話-3)

キャラクターを集めることで、話の全体の柱が出来ていくという感じなんですね。

若木:今は必ずしもキャラクター主導でなきゃいけないっていう意識はないんですけど、当時は自分自身もキャラクター中心の話が読みたかったし。私がSFを書いたのは、平井和正さんの『幻魔大戦』がすごく好きだったからなんです。超能力者が集まって戦うお話で、主人公の東丈というキャラクターがすごく好きになって、“高校生で超能力者”っていう設定はそこからの影響だと思います。ちょうど私がコバルト文庫で書かせていただいた時期に、同時多発的にファンタジーやSFを描きたい方が集まって「そんなに書きたいなら…」という土壌ができていたんで、ラッキーだったなって思います。

では、物語を書かれる際に、とくに重要視されていることはどんなことでしょうか?

若木:読者の方が一番目を向けてくださるのは文章らしくて、私自身も力を込めていい文章を書こうとしているので。面白いお話を書くのはいろいろな方法論があると思うんです。小説以外に、まんがでも映画でも。それをなんでわざわざ小説で読むのかっていうのは、やっぱり“文章がいい”ということがあるからなんだと思います。だから、それが第一の命題ですね。

それでは最後に、『エンゲイジ』の続きを楽しみにされている読者の方へ、メッセージをいただけたらと思います。

若木:今作のPRページを見て、「33年ぶりのコミカライズ」っていうのを初めて知ったんです(笑)。33年ぶりにもかかわらず昔から読んでくださっている方もいて、今回初めて作品に出会った方もいらして、それぞれの読み方で読んでくださっているのだと思います。どうもありがとうございます。自分の中では、30数年前の『オーラバスター』と今の『オーラバスター』が完全に繋がっていて、佐々木さんもつぼみさんも、今、読んでくださる方へより一層届くように気遣ってくださっています。昔から読んでくださっている方には今後もさらに期待していただきたいですし、初めてご縁ができた方には「怖くないから入ってきてください」と(笑)。皆さんが今、思っていることや抱えてる問題に寄り添おうとする作品だと思うので。

キャラクターが抱えたバックボーンとか心情や悩みに共感したり、一緒に乗り越えて成長したりできる作品ですよね。

若木:ありがとうございます。『オーラバスター』はそのために書いたようなところがあって。「親に言えない」「友だちに言えない」とか、「これは自分だけの気持ちなんだろうか?」ということとか、生きづらさを感じていたり人生に励みがないなって方たちに、できるだけ近いところに存在できたらいいなと思っています。

また、このコミカライズがきっかけで、小説を含め、より多くの方に作品が広がっていくと素敵ですね。本日はありがとうございました。

フラコミlike!で大人気連載中!

『ハイスクール・オーラバスター・エンゲイジ』

原作/若木未生

作画/佐々木柚奈・つぼみ可奈

『ハイスクール・オーラバスタ-』(集英社コバルト文庫)

『ハイスクール・オーラバスター・リファインド』(徳間書店トクマノベルズ)

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若木未生(わかぎ・みお)

1968年12月2日、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部日本史専修中退。1989年、大学在籍中に『AGE』で第13回コバルト・ノベル大賞佳作入選。 同年、コバルト文庫『ハイスクール・オーラバスター 天使はうまく踊れない』でデビュー。主に集英社コバルト文庫・雑誌『Cobalt』で活躍。その後、各社レーベルや、一般文芸にも活躍の場を移す。日本SF作家クラブ会員、日本推理作家協会会員。

[代表作]

『ハイスクール・オーラバスター・シリーズ』『グラスハート』『真・イズミ幻戦記』『ゼロワン』等。