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『黒薔薇アリス D.C.al fine』最新 5 巻・『狗月神社』
水城せとな最新作2冊同時発売記念特別企画!

この秋、水城せとな先生の作品がもっともっと楽しめる!! 10/9 より『黒薔薇アリス D.C.al fine』最新 5 巻(月刊フラワーズで連載中)、『狗月神社』(増刊フラワーズ掲載)が 2 冊同時発売! これを記念して、水城先生の作家生活のターニングポイントとなったレジェンド作『窮鼠はチーズの夢を見る』シリーズの配信を開始&特別インタビューを敢行! 『窮鼠』シリーズの初代担当でもあった編集者・山内氏と思い出を振り返りつつ、作品秘話に迫ります! ここでしか見られない超貴重な下絵も特別公開!お見逃しなく!

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※インタビュー記事を読みたい方は、このまま下にスクロールしてください

※インタビューには本編のネタバレが含まれます。

目次

「窮鼠」シリーズは作家としてのターニングポイント

今だから語れる!「窮鼠」シリーズ秘蔵裏話

作品のテーマは「愛の正体は何か?」

水城せとなが語る『窮鼠』キャラクターと『窮鼠』の物語

超貴重!『窮鼠はチーズの夢をみる』『黒薔薇アリス』『失恋ショコラティエ』クロスオーバー漫画

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漫画家としてデビューされたのは小学館の新人コミック大賞に入賞されたのがきっかけからだと伺っております。

水城:元々、私が同人誌とかで漫画を描いていた時期に、友達が小学館でデビューしたんです。「あなたも応募してみたら」って応募用紙をもらったので32pの漫画を描いて送ったら入選させていただいて。プチコミックの当時の編集さんから「デビューしましょう!」って連絡をいただきました。当時大学3年生だったので、あの時にデビューしていなかったら普通に就職してたかも(笑)。

山内:水城さんが投稿された作品は低年齢層を意識した作品が多かった中、大人っぽくて、情緒的で。セリフ回しもとっても良くて、個性もあって素敵だなって思ったのをよく覚えています。「この才能を逃してはいけない!!」と審査の時に熱烈にプッシュしました。

水城:デビューしてから山内さんとお会いしたときにそのお話を伺って、「そんなことがあったんだ!」って知りました(笑)。

その後、プチコミックからデビューして、ベツコミ(当時の別冊少女コミック)など主に少女誌で長く描かれていらっしゃいましたよね。

水城:読者層が高校生というのもあって、“高校生の恋愛”というのが私にとってけっこう大きな縛りだったんです。その範囲の中では自分が思うように描けてなかったなという印象です。

山内:そんな時期に私がJudy編集部の配属になって、「NIGHTY Judyは新しくできた増刊で自由度も高そうだから、描いてみませんか?」とお声がけしたんです。

水城:そうなんです。私は軽い気持ちで「いいですねー」って答えてました(笑)。「年齢層も上がって描けるなら、幅が広がるかも」ってお引き受けしたんです。実際に具体的なお話が来た時に、NIGHTY Judyという増刊で「官能特集」「大人のエロス特集」ですみたいなお話で…(笑)。お話のプロットを何本も作った記憶があるんです。先に進みそうなものもあったんですけど、たぶん編集長が見てちょっと違うと思ったんでしょうね。

山内:そう、当時のJudyの編集長が「水城先生は、いろんな引き出しを持ってらっしゃるんじゃないですか? ゲイとかSMとか」というお話があって。

水城:それなら、「そういうプロットを考えてみます」ということで作ったのが、『キッシング・グーラミー』だったんです。そもそも恭一は男性と恋愛したことがない人だから、そんな簡単に「恋に落ちて、いきなりして、両想いになりました」って、っていうのはまったく官能的じゃない。やっぱり官能っていう言葉は、その裏に何かしらの模索とか葛藤が含まれてる状態だと思うんです。

山内:恋愛の真髄みたいな鋭い言葉がバンバン入ってきてて、「人と距離を縮めるというのはこういうことか」って思ってました。

そして、この『窮鼠』シリーズが漫画家生活のターニングポイントになったとのことですが、それまでとその後で、作品にどのような変化があったのでしょうか?

水城:それまでは、女子高生の学園ラブの枠の中で描いていたんですが、自分は女子高生ではないので考えを反映させるのに苦労したり難しかったんです。もちろん読者の方が楽しめるものを描くんですけど、「高校生はこんなこと考えないな」とか「高校生の私って、もっとこういうことを思っていたよね」とか考えてしまって、リミッターをかけていたんです。それが、『窮鼠』で初めて大人が主人公で描いて大丈夫ってことだったので、描ける作品の幅がすごい広がったという感じがしました。そこから『失恋ショコラティエ』だったり、大人の恋愛や考えることを描けたので、感慨深いですね。改めて、漫画の楽しさを気づかせてもらえた意味でも、ターニングポイントでした。

山内:楽しく描けたし、読むほうも楽しかったし、よかったです!

水城:それを面白いと思ってくださる方に、届くのはありがたいですね。

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水城先生が考える“官能”という表現がつまった、恭一と今ヶ瀬の再会を描くシリーズ第1作。(『キッシング・グーラミー』)
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1作目の『キッシング・グーラミー』の頃は、完全に読み切りとして考えられていたんですよね?

水城:増刊も定期的に出るんじゃなくて、次に出たとしてもどんな特集になるかもわからなかったから。とりあえず1話目の段階では読み切りで、あそこで終わりというお話でしたね。

山内:幸いNIGHTY Judyもある程度決まったペースで出せるようになったので、続きを描いていただきました。3話目のとき「夏生を再登場させるつもりです」っておっしゃられて。コミックス2冊分くらいで完結するくらいのイメージで、すごい先のお話もできていて。

水城:最初に、シリーズを続けさせていただけると伺って、『窮鼠はチーズの夢を見る』のところで一応の結末は果たされたと思うんです。でも、できればここを折り返しにして、あと1冊分で単行本2冊で終わる話なので、そこまで描かせてもらえたらありがたいんですけど、ってお話しましたね。『憂鬱バタフライ』のときは別冊ふろくになって、その後は編集長が変わってJudyでの掲載が難しくなってしばらく止まってたんです。

山内:その頃に、別の形で「ぜひ続きを!」ということになりましたよね。

水城:はい。デビュー時の担当さんから、「モバフラというWEB漫画誌を立ち上げるから、続きを描きませんか?」ってお声がけいただきました。実は、私の頭の中では最後までできあがっていて、『梟』の七里ヶ浜の駐車場の見開きのシーンも考えていたので、携帯で1コマずつ見せる漫画では描けないからお断りしようと思ったんです。でも、「必ずコミックスになるから、そのときに見てもらえます!」とおっしゃってくださって、やってみようかと思って『梟』と『俎上の鯉は二度跳ねる』を描きました。

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早い段階から頭の中でできあがっていたという、七里ヶ浜の駐車場の印象的なシーン。(『梟』)

やっぱり作品が愛されていたから、いろいろな形で続いていったんでしょうね。

水城:単行本が1冊出てきたときにだいぶ人気が出てきて、それもあってモバフラで声をかけてくださったんだと思います。コミックスも何ページでも対応できるから、最終話は何ページ描いても大丈夫って言っていただいて。とりあえず、描こうと思っていたことを入れてネームを切ったら、実際のページ数の1.5倍になったんです(笑)。「これはまずい!」って思って。描くのも大変だし、だいぶカットして収めたのが最終話ですね。

山内:濃い作品が出来たんですね。

水城:今、自分で読んでも充分長いと思うので、カットしてよかったなと思います。

各話のタイトルに生き物が入っていてとても印象的でしたが、どういうテーマでつけられていたんですか?

水城:1話目の『キッシング・グーラミー』は内容になぞらえて、たまたま熱帯魚の名前をつけました。『楽園の蛇』は「あいつはエデンの蛇だ」ってセリフがあったんで“蛇”になって。その頃は全然、生き物を入れていこうとは考えてなかったんです(笑)。『黒猫の冷えた指先』のときは、実際に私が黒猫のジッポを持っていて小道具に使おうと思ったから“黒猫”で、「魚、蛇ってタイトルに生き物が入ってるから、黒猫でまた生き物入るな」くらいに考えてました。『窮鼠はチーズの夢を見る』は「追い詰められた挙句、現実逃避して甘い夢を見る」みたいな意味で、そういう要素がある内容だったし、“鼠”も入るからと思ってタイトルにしました。後半は、今まで全部生き物入れてきたから、最後まで生き物入れないとなって『梟』と『俎上の鯉は二度跳ねる』になりました。梟は夜の鳥で、夜が明けて自分はいなくなる今ヶ瀬が“梟”ですね。

流れで、生き物が増えていったということなんですね。では、作品の中で特に気に入っているシーンも教えていただけますか?

水城:『俎上』で恭一が今ヶ瀬と言い合って「俺が女だったら洟も引っかけなかったくせに…!」というシーンですね。今ヶ瀬は一途な恋愛はとても美しくて、自分がどれだけ好きでその想いがすごく尊いかのように見せてるけど、でも恭一が女だったそもそも興味なかったでしょ?って切って捨てるところだから、けっこう核心に迫った部分でもあって、私は好きですね。

山内:頭がいい人たちですよね。

水城:頭のいい人たちがバシバシやりあう(笑)。このシリーズを描くにあたっては「この人たちは言葉でバンバン戦いあうし、それもこの2人の面白いところだから、セリフの量が多くても好きにしゃべるまま描こう!」って思いました。それだけしゃべってて、その全部が本音でもなくて、駆け引きだったり、強がりだったり、たまに核心をついたり。そういうところが面白いんじゃないかな?

作画などで大変だった部分はありますか?

水城:恭一は黒髪でずっと出てるから、描くのにけっこう時間かかりましたね(笑)。あと、最後のほうで恭一がずっと巻いているマフラーのストライプが手描きだったんです。フリーハンドで描いていたから、こういうのも時間かかったなぁ…(笑)。

山内:描いてくださってありがとうございました!

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これが、渾身の手描きストライプが入った恭一のマフラー! マフラーの質感にも注目。(『俎上の鯉は二度跳ねる』)

水城:この頃のカラーは、紙にシャープペンで描いてスキャナーに取り込んで、色をつけたりしてたんです。今は原稿が下描きからデータなので残ってないんですけど、このころはHBのシャープペンで下絵を描いてました。

キャラクターをひとりずつ描いて取り込むというのは、先生のこだわりなんでしょうか?

水城:そのほうが位置を調整しやすいんですよ。コミックスのカバーは2人とも全身だから、ちょっとした大きさが合わないとかもあるので、それぞれ別に描いて大きさを調整しながら色を塗ってます。一緒にソファーに座らなきゃならないから、ソファーも別に描いて。実際にシャープペンで描いて取り込むほうが、イラストを見たときに綺麗だなって思って。時系列で下絵を取ってあるので、意外と別の作品と同じ時期に、こっちの作品を描いていたんだっていうのがわかりますね(笑)。

ここでしか見られない秘蔵中の秘蔵!
下絵のクオリティーが素晴らしい!!

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(NIGHTY Judy 2005年10月号 表紙)
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(『窮鼠はチーズの夢を見る』ジュディコミックスカバー)
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(『窮鼠はチーズの夢を見る』新装版カバー)
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(『窮鼠はチーズの夢を見る』ドラマCDジャケット)
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男性同士の恋愛を描いていますが、レディースコミックであることを意識して描かれたところはどこでしょうか?

水城:BL作品って最初から男性同士の恋愛を読むっていうジャンルで、ある種のファンタジーを求められていると思うんです。聖域があるというか、やってはいけないこともあるから、もしBL雑誌で描いていたとしたら、こういう話にはならなかったと思います。レディースコミックの作品だったので、恭一は今ヶ瀬と結ばれる道もあるし、女性と結ばれる物語としても成立するんですよね。例えば、たまきちゃんと結ばれて終わってもおかしくない。

たまきと結ばれても幸せな人生を送れると思うし、今ヶ瀬に行ったら大変だぞって思いながら行ってしまう気持ちも描かれていたので、恋愛漫画としてとても面白い作品になっていますよね。

水城:完結編の『俎上の鯉は二度跳ねる』が出るとき、「続きが読めて嬉しい」って方もたくさんいらっしゃったんですけど、意外と『梟』で恭一と今ヶ瀬がキレイに別れて終わったから、「そこで終わりでも良かったと思った」という感想もいただいたんです。そういう意味で、BLとはまた別の形で恋愛ものとして描かせていただけたなと思いますね。

この2人にしかわからないものというか、「愛って綺麗じゃなくても、こんなにぶつかり合ってわがままに生きたって、それがあるから深く繋がれる」という気持ちをわからせてくれますね。

水城:今ヶ瀬から見たら、普通に自分のタイプの好きな男性を追いかけ続けたというお話で、実は最初から最後までそんなに変わってないんですよ。でも、恭一の場合、最初は恋愛対象じゃない存在から求められて、「いや、ないでしょ!」って思いつつ要求に渋々応えていたけれど、心が動く部分も出てきた。でも、葛藤もあって。自分が心地いいからってつきあい続けるのは今ヶ瀬を利用してるだけっていうか、「やっぱり自分はゲイじゃないから、上手くいかないんじゃないの?」って考えるんですよ。「じゃあ、愛ってなんだろう?」っていうことに、恭一がどんどんハマって考える物語になったという感じです。

作品の後半、恭一と今ヶ瀬の“抱く側と抱かれる側”が入れ替わっていきますが、恭一にはどういう心境の変化があったんでしょうか?

水城:やっぱり、今ヶ瀬の気持ちを受け入れ続けてるから続いてる関係で、恭一は「相手に任せていただけだから」って立場なんです。今ヶ瀬にしてみたら「本当は自分が愛される側になりたい」っていう思いはあって、それは“恭一がこの関係をリードする”ということなんですが、それを今ヶ瀬のほうからお願いしたらそうじゃなくなってしまう。「言いたいけど、言ったら意味がなくなる」みたいな部分だったと思うんです。恭一も自分たちの関係の責任を感じ始めた時期で、「自分は今ヶ瀬に流されて逃げ続けていたから、かみ合わないことになってるんじゃないの?」という考えに至ったのと、自分の愛する本能に火がついたんだと思います。

最後に、恭一の覚悟を浴びていく展開だと思いました。いい意味で、2人の愛のバランスがガッと変わったところも印象的でした

水城:恭一は、“対等じゃない、フェアじゃない”ところをずっと気にしていたんです。自分だけが好かれて「いいよ」って受け入れてることで成り立ってる関係だから、今ヶ瀬が情緒不安定になって「愛されてない」と思って上手くいかない。だから、「自分が対等になろう」って決意をして。今までは“今ヶ瀬のせい”って言っていたけど、「そういうことじゃないんだ」という領域に足を踏み入れたってことですね。

『俎上』でも、恭一が愛について語っていましたよね。「恋愛は業だ」っていうセリフで。

水城:その人とやっていくために、ものすごい変容を強いられることもあるから。2人も何度も別れようとしてるんですけど。普通はある程度上手くいかなかったら別れますからね(笑)。『俎上』で今ヶ瀬が戻ってきてバシバシ言い合うシーンは、恭一の本音もすごく出てるし。さっきも言いましたが、恭一の「俺が女だったら洟も引っかけなかったくせに」っていうセリフがすごく好きなんです。「そりゃそうだよ。本当にその通り!」って(笑)。恭一が女だったら、今ヶ瀬は絶対興味持たなかっただろうなって。

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水城先生が好きな恭一の本音がこぼれるシーン。そこに、今ヶ瀬への想いも詰まっている。(『俎上の鯉は二度跳ねる』)

あのセリフを読んだとき、恭一がその発想をするっていうことも含めて、「すごい!」と思いました。

水城:恭一の立場からしたら、自分ばかりがいろんなハードルを越えさせられてるんですよね。今ヶ瀬はゲイだから男の人を好きで、ずーっと好きな男の人を追いかけ続けている一本道の話で。でも、恭一はそもそも恋愛対象じゃなかった人を受け入れるってところから始まって、能動的に愛するというところまで考えて、「これで正しいのか?」「こうやったら上手くいくのか?」みたいな模索や自信のなさ、いろいろ突破しなきゃいけない壁がたくさんあったので、今ヶ瀬とは向き合うハードルの高さ全然違いますね(笑)。男の人を好きになって生きてきた今ヶ瀬にも、想像出来ないところだと思うんです。でも、今ヶ瀬は“僕わかってます”みたいな態度をとるけどあんまりわかってないし、「いつ終わっても平気だから」とか言いながら全然平気じゃない。たぶん、今ヶ瀬が女の子で男女のカップルだったとしても、恭一は今ヶ瀬ちゃんをなだめるのに大変だったと思います(笑)。

山内:人として成長しましたよね、恭一。

水城:この作品は、「恭一、成長物語」ですね(笑)。これが男女の話であっても、自分がやってほしいことを捉えてくれて、心地よくとことん尽くしてもらえて、「こんなにしてもらえるんなら一緒にいてもいいかな?」って、そりゃなりますよ(笑)。でも、「それって愛してるってこと?」って考えたら、「どうなんだろう?」と思いますよね。

このシリーズは「愛の正体は何か?」をテーマに掲げているとのことですが。

水城:最初はテーマについてはそこまで考えてなくて、結果的にそうなっていきましたね。恭一が愛の正体を探る大冒険の話になりました(笑)。恭一としては、「受け入れること、受容することが愛なんだ」と考えたんだと思いますね。ただ恭一としては、“この後、同じすれ違いが起きたら、その時を本当にお別れのときにする”っていうことも決心した終わり方になっているんです。それは“最後の終わり”の始まりでもあるから、これからは今ヶ瀬がどれだけ頑張れるかっていう話になっていくと思いますね。

山内:その後の読み切りで「よかった、この2人仲良く付き合ってる!」って思って。

水城:沖縄に行ったりしてね(笑)。

読者の期待もどんどん上がっていったと思うんですが、2人の関係性を描く上で“外してはいけない部分”はどんなことがありましたか?

水城:今ヶ瀬も恭一も「私が動かそうとしない」っていうことですかね? 例えば「読者さんに期待されるからもっとイチャイチャさせよう」とか、それは読者サービスとして必要なことだと思うんですけど、この人たちもイチャイチャすることもあるし、した後で「なんだったんだろう、今の」って考えることもあるし(笑)。そこはこの人たちの人間性を尊重して、大事にしてたと思います。私は描くときにはイタコのようだ、と常々言ってるんですけど、その人たちがやることをなるべく忠実に描くようにしてました。「もっとこうしたらいいのに」って思ったりするけど、私とは違う人間だから、彼らが生きるままに描写するというところですね。

山内:キャラに引っぱられてると本質と違うところに行きがちなんだけど、いつも踏み外さずに描かれていましたよね。

水城:たぶん毎回読み切りの連作形式だったから、踏み外すことがなかったんだと思います。「毎回読み切りで、この話しか読まない方がいるかも」ということを意識して描いていました。この人たちの関係性に、ただただフォーカスしていくっていう作品だったから、本質を追い続けて最後まで描けたのかな?って思いますね。

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キャラクターの人間性を尊重されていますよね。それぞれのキャラクターにどんな魅力を感じられていますか?

水城:今ヶ瀬は一途なところが魅力って思われているんですけど、実は最初に恭一を口説いているときにも同棲相手の男の子がいるし、基本はだれかといたいタイプなんだなって。でも、あんまりそういうところを見せないじゃないですか。それが今ヶ瀬のかわいいところかもしれないですね。最初からそういえばいいのに(笑)。恭一は浮気者って見られるんですけど、遊びの人には「相手も遊びってわかってるから」と思って遊んでるし、本気でお付き合いする人にはちゃんと結婚を考えてるから、今ヶ瀬が女の子だったら結婚を考えていたと思います。最終的には指輪をあげたりとか、ちゃんとした関係になろうって深く付き合ってると思うんです。今ヶ瀬はゲイだろうとなかろうと結婚したくないというか、恋愛を楽しんでるのが好き(笑)。

山内:感情のままに恋愛をするっていうタイプですね(笑)。

水城:恭一は優しいからモテるし、身近にいたら評判のいい人だろうし。私は2人とも好きです。この作品に出てくるキャラクターはみんな好きですね。夏生も好きだし。夏生が誤解されがちなのが、「みすみす溝に溺れさせるわけにはいかない」ってセリフでゲイを溝って呼んだって誤解されがちなんですけど、これは「簡単にホイホイついていってるから、思いもよらないところにポチャンと落ちて大変なことになるよ」っていうのを“溝にハマる”って言い方をしてるんです。でも、最終的には今ヶ瀬と仲良く一緒に飲んでますし(笑)。もし恭一と今ヶ瀬が別れたとしても、今ヶ瀬と夏生はちょいちょい会って飲んだりする関係なんだろうなって思います。あと、たまきちゃんは純真さと、したたかさのバランスがちょうどいい子かなと思います。

山内:純真だけど弱くはないですよね。

水城:いろいろわかってるけど、「わかってますよ」って顔していてもしょうがないからニコニコしとくしかないっていう部分もあるんです。でも、最後別れるってなったときに、納得するまで言い合って、言いたいことはちゃんと言うし、聞きたいことはちゃんと聞くみたいな強さもあって、いいことづくめな子だなと思います。

山内:言うべきときに言うべき内容を言える人って、すごく憧れます。

水城:そういう意味も含めて素直な人なんだなって思いますし、素直な人って幸せへの道が近いと日頃から思うので、きっとたまきちゃんはすごく幸せになる子ですよね。

山内:素直だけどわがままじゃないっていうのが、いいですよね。

水城:普通に今ヶ瀬と張り合える人だったんじゃないかな。今ヶ瀬がいろいろ言ったら、だいたいの女性は負けると思うんですけど、たまきちゃんにも勝ち目はあったと思います。

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夏生とたまき。恭一と今ヶ瀬を取り巻く、それぞれカッコいい魅力を持つ“いい女”の2人

では、この作品を漢字一文字で表すとしたら、どんな漢字になりますか?

水城:漢字一文字っていうか二文字になるんですが、パッて思いうかんだのが「甲乙」なんです。その「甲」と「乙」って両方植物を示すんですけど、「甲木」って1本でスッと立ってる木で、「乙木」はお花とか低木とかツル草みたいなもので。甲乙の関係って、“甲が木としてちゃんと立っていて、乙がそれに絡んで一緒に伸びていくもの”みたいになるんです。だからこの『窮鼠』シリーズは、恭一が“ちゃんと立つ人”になっていく話だったと思うし、それに絡みついて離れないのが今ヶ瀬の生き方だったなって思って、「甲乙」という漢字になりました。

山内:そのお話を聞けてよかったです! 「甲木」「乙木」も初めて知りました。2人の映像も浮かびますね(笑)。

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それでは最後に、『黒薔薇アリスD.C.al fine』5巻&『狗月神社』のコミックス同時発売、『窮鼠』シリーズの初配信について、読者の方へメッセージをいただけたらと思います。

水城:今回、同時期に2冊のコミックスが出ます。月刊フラワーズで連載中の『黒薔薇アリスD.C.al fine』は、『黒薔薇アリス』という作品から続いてるヴァンパイアものの長いお話で、第二部って位置づけなんです。もし最初のシリーズを読んでない方がいらっしゃったら読んでいただけたら嬉しいですし、第二部だけ読んでもわかるようには描いていますが、昔の人物も関わってきているので、一番最初から読んでいただけると、より楽しんでいただけるかなと思います。あともう1作の『狗月神社』は増刊フラワーズで描いていたオムニバス形式のお話です。その神社でお願いすると亡くなった犬が帰ってくるって伝承があって、それを元にした3つの物語になります。ちょっとホラー要素もあるので、楽しんでいただけたらと思います。そして『窮鼠』シリーズは、綺麗ごとじゃない恋愛に、とことんハマるというお話なので、それを「こういう人って現実にもいるよね」とか「こういうことって、あったな」とか、自分自身に重ねて楽しんでいただけたらなと思います。

この秋は、3つの水城作品をいろいろな形で、読者の方に楽しんでいただけたら嬉しいですね。

山内:いろいろな貴重なお話を伺えて、本当にありがとうございました。

超貴重!

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水城せとな(みずしろ・せとな)

1992年小学館新人コミック大賞に入選。『プチコミック』でデビュー。代表作となる『窮鼠はチーズの夢を見る』『失恋ショコラティエ』『黒薔薇アリス』など数々のヒット作を生み、話題となった映像化なども多数。現在、月刊フラワーズで『黒薔薇アリスD.C.al fine』を連載中。